2019年12月08日

貧困の経済学 上

貧困の経済学 上
貧困の経済学 上


単行本: 400ページ
出版社: 日本評論社 (2018/9/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4535558639
ISBN-13: 978-4535558632
発売日: 2018/9/18
梱包サイズ: 22 x 15.7 x 2.7 cm


◆「監訳者あとがき」より抜粋

本書は、著者マーティン・ラヴァリオン(Martin Ravallion)の30年にわたる貧困および貧困政策の研究を集大成した著作であり、この分野での世界の研究の到達点を示すとともに、今後の研究の基礎となりまた指針を示す書である。

ラヴァリオンは、1952年オーストラリアに生まれ、シドニー大学で学部教育を受けた後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号と博士号を取得した。オックスフォード大学での研究員、オーストラリア国立大学での教員を経て、1988~2012年の間には世界銀行に勤務し、1999年以降には研究部門の要職を歴任し、2007~12年には同部門の責任者を務めた。2013年からはワシントンのジョージタウン大学で経済学部に新設されたEdmond D. Villani講座教授の地位にある。著者の主な仕事は世界銀行時代になされたこともあり、マスコミに華やかに登場し、一般知名度が高まることはなかったが、論文が参照される回数においてはトップクラスであり、また、国際開発課題の設定に研究者として貢献してきた。MDGsのターゲット1・A「1990年から2015年までに、1日1ドル未満で生活する人々の割合を半減させる」は、ラヴァリオンによる推計方法の確立があってはじめて、数値目標として設定されうるようになった。

本書の執筆は著者がジョージタウン大学に移った2013年に始められ、研究書であるとともに教科書としても用いうるように構想されている。理論から応用へという通常の発想ではなく、貧困という現実問題に取り組む中で必要に応じて経済理論を学ぶ、という独自の設計がなされている。そして、貧困問題に関心を持つ一般読者にも読みやすいよう、配慮がなされている(本書に関連する追加の情報や最新のニュースは、著者のサイトで見ることができる。)

本書の意義については、目次に目を通されるだけでもおわかりいただけるであろう。貧困(そして不平等)について経済の視点から知るべきこと考えるべきことは、濃淡の差はあれ、すべてこの書に含まれている。第I部での、過去200年におよぶ世界での(絶対)貧困削減の趨勢、それをもたらした取り組み、そしてその背後にある貧困観の変化、についての厚みのある概説は、それ自体として興味深いものであるとともに、現在なされているさまざまな提案を検討する上での歴史上の参照を可能とする。第II部では、貧困の測定と評価に関する方法論とその実地適用として、「厚生」(welfare)の概念規定と測定、貧困線の設定、貧困および不平等に関する集計指標の導出、そして政策効果評価の手法、について体系立った議論が詳細に展開される。第III部では、今日の世界での貧困と不平等の概観を踏まえ、成長、貧困、不平等、をめぐる議論がレビューされ、全経済と部門別の主要な政策の貧困への影響が検討され、ターゲティングを伴う貧困政策の役割と効果が論じられる。

著者は貧困根絶に本気である。経済学者はWarm HeartとCool Headを持たねばならないと言われるが、著者のHeartは、Warmを超えてHotとも言ってよいぐらいに、貧困者が置かれている状況を真剣に受けとめる。貧困者の数は減っているが「消費の底」は上昇していない(SDGsの唱える「誰一人取り残さない」は、未達の課題である)、ことを重視する。自己責任論を排し、貧困という不正義を根絶するために、それを生み出している諸要因に取り組むための一国および世界レベルでの公共行動の必要を説く。この点は、現在の日本での貧困者自己責任論の横行と生活保護有資格者への給付抑制政策の推進、そして子ども・若者への公共支援の不備、という現実に照らして、特筆に値する。「貧困研究のグローバル・スタンダード」を示し「貧困と戦うバイブル」である本書が、日本での現在そして将来の貧困と取り組む上で活用されることを切に願う。
(柳原透氏・拓殖大学名誉教授)
posted by ゴロゴロ at 04:00| 埼玉 ☔| 日記 | 更新情報をチェックする